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コレクトコールって、何?

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コレクトコールって、何?

コレクトコールって、何?

2022/08/05

コレクトコールの意味

collect の意味

1.「鍵をもらいに来るから」

 大学の2年生になったある日、ある英語の先生から、「君たちはもう2年生になったんだから、これからはPOD(Pocket Oxford English Dictionary)を使いなさい。」と言われ、その日の内に丸善へ行ってPODを買い求め、以後その辞書を使いました。PODは使ってみると、非常にとっつきにくく、不親切な辞書でした。説明の文字数をこれでもかというほど少なくした携帯サイズの英語辞典だったからです。その先生が、説明が丁寧な卓上型の兄弟辞書、COD(Concise Oxford English Dictonary)ではなく、ぶっきらぼうなほどコンパクトなPODの方を推奨された理由は、そのときは分りませんでした。でも使ってみて分ったことがあります。PODの方が早く引け、必ず最短距離の説明に接することができるので、辞書を引くストレスがかからず、読んでいる英語に集中でき、読書の質が上がったのです。

 4年生の夏休みには、シェイクスピアの『オセロー』を卒業論文の対象に選び、図書館に通ってアーデン版のテキストに取り組み、何とかそれを読みこなし、英語で論文を書き、ノートに清書して提出しました。それから2年後の修士論文は、シェイクスピアの『ハムレット』について書きました。今度はタイプライターを買って、毎晩、遅くまで書きました。しかし、日本語の下書きは一行も書きませんでした。実は『オセロー』のときもそうでした。私流にあえて理屈をつければ、アーデン版のテキストも、使う英英辞書も、目に入るものは全部英語なので、頭の中は英語しかなく、それ以外の選択肢がなかったのです。

 しかし、英語学習一般に関してここから得るべき教訓は、英語は、英語を使って考え、かつ感じてこそ、本当に身に付く、というメッセージです。英語の論文を書くに当たって、まず日本語で下書きを書いておいて、それを英語に翻訳するとなると、それだけ余計な時間と労力を課すことになります。それを回避する唯一の方法がPODの推奨、というより、ほとんど命令に近い学生への指示だったのです。英語を英語で理解することに徹した「英語エキスパート」の養成が、大学の英文学科の使命だったのです。 

 それから20年以上経ち、文部科学省派遣の在外研究員として、当時、英国バーミンガム大学のキャンパス内にあった『シェイクスピア研究所」(Shakespeare Institute)に滞在中のある日、研究所にいる私に電話がかかりました。研究所の助手の方が取り次いでくれたその電話に出てみると、私より半年遅れで、同じバーミング大学の工学部に若手枠の在外研究員として10か月間滞在するためにやってきた、私と同じ大学に籍を置く、知り合いの若い同僚からでした。それは急を要する依頼でした。彼が言うには、「大学から紹介された借家を借りようと、管理人の不動産屋を訪れたところ、自分には理解できない理由で貸さないというので困っている。今は家族と共にホテルに滞在しているのだが、ホテル暮らしは一日1万円以上かかり、大変だ。ついては、不動産屋と交渉してもらえないだろうか。」ということでした。一家で一か月ホテルに滞在すれば、40万円近い出費になります。私の場合、一か月7万円くらいで一軒家を家族で借りていたので、その差は莫大でした。

 翌日その不動産屋に行ってみると、家主が海外に住んでいて、なかなか連絡がつかず、しかも法律上、家主の許可が出ないと貸すわけにはいかない、自分としてもどうにもならない、という説明でした。「イギリスの法律を私も最大限尊重するが、こんなことをしていては誰も得をしない。あなたは仲介料がもらえないし、家主は家賃収入が入らない。勿論、ここにいる私の同僚は、只今ホテル住まいで、毎日の経費が多く掛かって困っている。ここはあなたの裁量で何とかしてもらいたい。今日は週末だから、来週の月曜日にもう一度来る。そのときには部屋の鍵を渡してもらいたい。」と、ざっと、こんなことを英語で一方的にしゃべって、その場は一旦引き上げ、翌週の月曜日に、再び、同じ不動産屋に二人で出向きました。すると不動産屋の主人は、今度は、全回とは打って変わって、どこかさばさばした様子で、「警察沙汰にするのは止めました。法 的には問題があるが、鍵を渡します。」と言って鍵を渡してくれました。あっけない幕切れです。同僚は、本当に助かったと言って感謝してくれました。

 「来週の月曜日にもう一度来る。そのときには部屋の鍵を渡してもらいたい。」という趣旨のことを、私は、"We shall be coming back next Monday to collect the key." と言いました。出てくる言葉を、私の意識が追跡していましたが、「おや、自分はこんなことを言ってしまったな。」という思いが、そう言ってしまった自分自身を、0.1秒だけ時間的距離を置いて見ている、という状況でした。「そのときには鍵を渡してもらいたい。」というのは、「来週の月曜日には、私たちはあなたから鍵を受け取るつもりですからね。」という言い切りであり、私たちの不退転の決意を表す言葉です。それ以来、その時のやり取りが何度か思い出され、その都度気になったのは、なぜ collect the key という表現を使ったかということでした。この表現を直訳すれば、普通なら「鍵を集める」となりがちです。でも、勿論、私たちがそこでしたかったのは「次の週に鍵を受け取る」ということでした。ではなぜ、"...to receive the key." と言わなかったのか、ということです。あるいは、"...to take the key." ではいけなかったのか、という疑問です。でも私は、日本語を英語に訳す、ということは人に頼まれたとき以外、したことがありませんでした。「鍵を受け取る」という日本語が最初に頭の中に出てきて、それを英語に翻訳する、という二度手間は、英語を使う場面ではしたことがなかったのです。不動産屋は英国人ですから、英語で話しをするのが当然です。ですから英語で考え、英語で交渉したのです。逆に、日本人と話しているときは、日本語で考え、日本語で話します。全く、当たり前ですね。私にとっては、実はそれ以外、あり得ないのです。では、"...to receive the key" とか、"...to take the key." ではいけないのでしょうか。いけなくはありませんが、相手がネイティブの英語話者なら、多分、引っ掛かります。そういう英語は、はっきり言って、気分が悪くなるのです。でも、その英語は「当たらずとも遠からず」ですから、敢えて点を付ければ、50点か、せいぜい60点です。「君の言いたいことは分かる、でもそれって、本物の英語ではありませんよ。」と言いたくなるのです。

 昔見た西部劇映画の一コマに、列車強盗が銃を突きつけながら乗客に金品を要求する場面がありましたが、盗賊の一人が帽子を回して金品を「集める」際に、私の記憶が正しければ、collect という動詞が使われていました。「警察沙汰にするのは止めた」と借家を管理する不動産屋が、私たちを見るなり、私たちに言ったのは、「本来なら警察を呼んで、君たちを捕まえてもらいたいところだが、それをやめた。」という意味です。私の使った collect は、あのような状況の下では、強盗まがいの恐喝、と受け取られる可能性が全くなかったとは言えなかったのです。それを思うと、危なかったな、という思いです。不動産屋は、すぐに鍵を渡してくれました。でも一つ間違えば、私たちは逮捕されていたかも知れません。

2.collect 考

 前回のブログでgather, assemble, collect の三つの語を取りあげ、いずれも「~を集める」という他動詞として使われるが、自動詞としても使われることがある、と断った後、それぞれの使い分けを、事例を出しながら説明しました。gather はあたりに散らばっているものをかき集める、という意味が主体であり、assemble はしかるべき人がどこかに集合したり、部品などを集めて何か複雑なものを組み立てたりすることが主な意味であり、collect は何か意味のある物、価値のある物を収集家が収集する、会計係が会費などを集める、親が下校時に子供を迎えに行く、預けた品物を回収する、というとき使われる、とそれぞれの使い方の特色を説明しました。

 collect は語源的には「選ぶ」という意味と「一か所に集める」という意味とが合体してできた言葉です。「一か所に集める」という意味はともかく、「選ぶ」という意味は、日本語にもなっているコレクトコール(collect call)にも当てはまります。それは、電話の相手に電話代を払ってもらう電話のことです。例えば、都会に下宿している大学生が、田舎の親に電話して、電話代を親に払わせて話をする場合など、相手が電話代を払ってでも電話に出たいはずの電話を掛けたいとき、交換手に、collect call でお願いしますと言えば、この制度を使った電話ができるのです。普通の電話と異なるのは、コレクトコールでは電話代を払うのが自分ではなく、相手だということです。一方、電話を受けるほうは、電話代を払えばその電話に出ることができ、いやなら断ることも出来ます。それを受けるか受けないかは、その都度事情を勘案して判断すればよいのです。コレクトコールを受けるか受けないかは、その電話を受けた側の自由な判断に任せられており、法律で保障された権利ですが、受ける選択をした場合は、逆に、費用を自分が払う義務も生じるのです。

 先の話に戻れば、「鍵を受け取る」とき、gather も assemble もあり得ないことは、すでにこれまでの説明からお分かりのことと思います。問題は collect でよかったのかどうかです。消去法で行けば、collect しか残りませんが、他方で、collect が正しかった、それしかありえなかった、と言えるだけの、決定的な証拠はあるのでしょうか。「鍵を受け取る」ことに「選択」の意味は入ってきません。「一か所に集める」という意味も入ってきません。ここで入ってきそうな意味は、「(自分、もしくは他者にとって)大切なものを受け取る」という意味です。例えば、親が学校に子供を迎えに行くとき、また、レストランなどに預けていた傘を、そこを去るとき忘れずに受け取って帰るとき、強盗が強奪品を受け取るとき、献金や会費を集めて回るとき、などにこの意味がかかわります。問題は、「鍵を受け取りに来る」と普通に言えるためには、不動産屋が「その時までには問題を解決して、きちんとお渡しすることをお約束します」と言ってくれている必要があったという一点です。実際にそう言ってくれておれば、私の collect は、これしかない一言だったはずです。「大事なものを権利としてきちんと受け取る」という意味がしっかり相手に伝わるからです。

 しかし、実際のところは、こちらが一方的に話を進め、「自分たちは決して引き下がらないぞ」という本気度だけはきっぱりと相手に伝えつつ、こちらの言いたいことはすべて言って、相手から見ればさぞかし「不法な」言い分にこだわったのでした。私たちは日本の紳士であって、決して強盗ではない。その証拠に、週末の二日間、警察沙汰にするかどうかも含めて、相手に考える猶予を与えたのであり、日本人の誇りと威信をかけた交渉に他ならなかったのです。そして、相手が理論的な敗北を認めるか、あるいは根負けして折れるか、それとも、「負けて勝つ」式の「粋な計らい」で、笑って決着を付けるか、それらのいずれかの対応を取ってもらえる可能性に、一縷の望みを託したのでした。

 後日、その同僚の話によれば、シェイクスピア研究所に英語のできる日本人の教授がいる、ということがもっぱらの噂になったそうです。当時シェイクスピア研究所には、私を含め、3人の日本人が滞在していましたが、私が一番年上でした。あとの二人はまだ20代後半か30代前半でした。ここはやはり、不動産屋の一件が噂の元である確率が一番高いと思われました。となると、私のcollect を「これしかない一言」にしてくれたのは、その不動産屋さんだったのです。結果的に言えるのは、この言葉の使い方は、会話教室などで、誰かに教わった使い方ではない、ということです。強いて言えば、自分が POD 以来、英語を英語で理解する訓練を欠かさず、日々精進している間に、いつの間にかマスターしていた英語だったのです。そして、それゆえに、時を得て、不動産屋を動かすほどの「自然な」一言にもなり得たのです。

 

 

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