request とquestion の発音の難しさって、何?
2022/02/02
1. リズムのない英語
/kw/の発音を学ぶ
最近、所用で名古屋へ出かけ、JRで岐阜駅近くまで戻ったとき、高山線などへの乗り換えの案内放送がありました。それが終わったところで、その同じ声で、英語での案内(多分、同じ内容の)が始まりました。外国人への「おもてなし」として急遽、導入されたサービスなのでしょうが、私としては、「日本人による、英語での乗り換え案内」ということで、一瞬虚を突かれ、びっくりしましたが、続いてショックだったのは、英語のはずの放送が、それらしい印象を全く与えないものだったことです。開き直ったようにさばさばと、事務的に、早口で、フラットで、句切れもイントネーションも感じられませんでした。このグローバル化の時代に、日本人も気後れすることなく英語で発信を・・・、という気持ちは分かります。でも、ここは、もっと他にやりようがなかったのか、と悄然たる気持ちになりました。例えば、事前に、しかるべきネイティブスピーカーの意見を聞くとか、観光客誘致に向けた配慮、などがあってもよかったのでは?・・・と思った次第です。
今さら、と言われるかもしれませんが、現在の日本では、英語を学ぶ際、表情豊かな英語、ダイナミックな対話や議論など、人をひきつける生きのよい英語に触れ、何としてもその呼吸を学びたいと思わせるような学習環境は、ほとんどどこにも見当りません。私たちは、英語の音声面の訓練を受けることなく、中学、高校を卒業し、さらには大学へ入り、社会人になっていきます。英語の持つ豊かなリズムを自分の身体で受け止めることのできる環境は大切です。そのような環境が与えられているのは、外国語大学の学生や留学生など、ごく一部の人達だけです。
私たちは、明治以来、数世代にわたって、文法と読解を中心とする語学教育政策――その歴史的意義は極めて大きく、今でもその基本的重要性は変わっていませんが――の中で、英語の命であるリズムの伸びやかさと、そこに宿る人の心を知ることなく、少数の模範的な英文と、毒にも薬にもならない半ば人工的な例文を数多く与えられてきました。これは鎖国にも似た、一種の隔離政策です。一時的な緊急避難としてならやむを得ませんが、明治以来150年も「伝統」と言わんばかりに、その傾向が続くのはさすがにいかがなものでしょうか。近年、この偏食的なメニューの弊害がだんだん目立つようになってきています。もっと普通に、外国人を相手に、簡単な英語が自由に使いこなせる人が多くならなければいけません。
ここまで日本の英語教育を偏らせ、かたくなにさせた原因の第一は、英語が日本語とはかけ離れた特異な文構造を持つことにあります。例えば、日本語には「主語」という概念がありません。また、目的語、他動詞、自動詞、補語という概念も存在しません。また、人称代名詞も関係代名詞も前置詞も存在しません。それらは英語を支える屋台骨であるにも拘わらずです。日本語にないものを理解するという、途方もない言語的ハンディキャップを克服する方法として、私たちは英文法と読解を中心に据えた、頭でっかちで理詰めの学習スタイルに傾斜していかざるを得なかったのです。
日本の英語教育を偏らせた第二の原因は、明治維新前後の状況です。突如、西洋近代文明の大波をかぶった明治の日本は、最先端の科学や医療や経済、また軍事や国際法など、ありとあらゆる部門の西洋の文献を自在に読みこなせる人材を、大量に、しかも早急に確保する必要があり、そのために、全国に隈なく小学校を作り、一定数の旧制中学、旧制高校、旧制大学を作り、国家プロジェクトとして、英才教育型の語学教育を推進しました。
しかし、平時の英語学習は、一般に言語の学習がそうであるように、まず音声面の学習から入らなければなりません。そうでなければ、せっかく英語を学んでも、それを使ってスムーズな意思疎通を図ることは望めません。実際、この学習法に正面切って反対する人はいません。でも、現行のスタイルになじんでいる人たちにこれを勧めても、入試とは関係ない、となってしまうのです。どこか別の国の話に聞こえてしまうのです。また、仮に大多数の人たちの賛同を得たとしても、これを全国ベースで全国民に応用するとなると、教師の頭数を揃えるのも大変であり、途方もなく経費と労力が掛かります。
となると、私たちは一体、どうすればよいのでしょう。何か良い思案はないのでしょうか?私は、余りにも平凡かもしれませんが、希望者を募って、アルファベットの発音から始めるのが良いと思います。アルファベットを学んだうえで、次に単語レベルの発音を経て、最後に、短文レベルのリズムやイントネーションを学ぶのです。少なくとも、出来るだけ多くの英語初心者や中級、上級の英語を目指す希望者に、リズムやイントネーションに磨きをかける、最初の一歩を踏みだす道は、弊社のオンライン英語講座もその一つですが、しっかり確保しておかなければなりません。
ところで、お気づきの方もあるかもしれませんが、このアルファベットから始める方法は、中津涼子さんの『何で英語やるの?』という本に書かれていた手法で、それをそっくり繰り返しています。本当に素晴らしい方法だと思うからです。そう思う理由は、アルファベットが英語の基本語彙であるだけでなく、英語にとって基本的な音を多く含んでいるからです。たとえば、アルファベットには、/l/や/r/だけでなく、/s/ の音や、/i:/ という長母音、/ei/、/ai/、/ou/などの二重母音、そして、/b/、/p/、/d/、/t/、/k/、/f/、/v/などの子音も含まれています。
アルファベットを推奨はしますが、どのような方法であれ、年齢を問わず、志のある人が、一つ一つの子音や母音を、素直な心で、優秀なインストラクターの指導のもとで、正しくきちんと学び取ることができる環境を整えることが重要なのです。というのも、それは、その後の英語学習の素晴らしい基礎になるからです。
実は、英語には、アルファベットに含まれない極めて重要な音もあります。アルファベットだけでは間に合わないのです。ですから、アルファベットに含まれない重要な英語の音を含む語を、別途ピックアップして、発音練習メニューに加えれば、立派な英語発音のテキストが出来上がります。そして、それをベースに、次の課題である、単語内の音節の強弱のリズムを学ぶことができます。
単語の発音は、日本人風にフラットになってはいけません。でも、心配は無用です。単語内の強勢アクセントをきちんと踏まえることで、音節の強弱のリズムを自ら作りだすことができるようになります。そして、それをベースに、センテンス(=文)内部の単語間のリズムを感じ取って、これをイントネーションとして表現し、自然な抑揚を持った英語に生まれ変わらせることが可能になります。私たちは、このように段階を追って、英語という言語を、その実態に即して、少しずつ、自分の脳髄に沁み込ませ、自分の意志や感情を自由自在に人に伝えるべく、顎や口内の各筋肉に訓練の跡を刻みつけていくのです。
今日は、このような観点から、日本語としてよく使われる英語由来のカタカナ言葉、「クエスチョン(question)」と「リクエスト(request)」について、それらの英語の本来の音、すなわち原音を徹底分析し、どこに、英語の発音を学ぶ上での、見逃しやすい、つまずきの原因が潜んでいるのか、またどのような訓練が必要なのか、見届けていきたいと思います。
2.新たな英語教育のための基本課題
「リクエスト」と「クエスチョン」という片仮名は誰でも知っている慣れ親しんだ言葉です。でも、これらの語の英語としての発音は、私たちが学ぶべき英語の原音、言い換えればネイティブの英語話者が発する音に学ぶ必要があります。日本語式発音、すなわち、片仮名発音では、通じないリスク、勘違いされるリスクが、どこまでも付きまといます。そこで、日本人の英語学習者が、片仮名英語の発音を迂回し、英語の原音に近づくために、決して外すことができない幾つかのポイントを、以下に挙げてみます。
第1ポイント:英語の音節に関する正しい理解を得ること。
第2ポイント:ランダムに集められた20個ほどの単語の内、単音節語と多音節語とを瞬時に見分け、多音節語については、強勢(=アクセント)
のある音節と、強勢の無い音節との間に存在する、母音間の相対的な強弱のリズムを正確に割り出し、単語内に生成される母音間のリズムを特
定できること。
第3ポイント:単語を構成する個々の子音の位置関係、並びに、複数子音の結合状況を把握し、それらを正確に発音する練習を踏まえて、多音節
語にかかわる、上記第1ポイントと第2ポイントとを勘案し、子音と母音が構成する単語全体のリズムを正確に把握できること。
これらの三つのポイントはすべて、英語の発音にかかわる一連の段階別学習(+訓練)課題を内包しています。
3.第一課題:音節に関する正しい理解
日本人の英語がリズム感に欠け、イントネーションもフラットになりがちな原因は、英語の音節について、日本語との比較をベースにきちんとした指導を受ける機会が、今の日本にほとんどないからです。日本の英語教育では、英語の音節の重要性に触れることはありません。日本語式の発音を矯正しようという意思も全く感じられません。例えば、desk の音節は一つなのですが、「デ」「ス」「ク」と日本語的に発音すると、あたかも三音節の語のように響きます。また、driver は二音節の語ですが、「ド」「ラ」「イ」「バ」「ー」と日本語的に発音すると、あたかも五音節の語のように響きます。ネイティブの英語話者たちは、単語を音節単位で記憶しているという基本中の基本を、日本人は知らされていないのです。実は、単語の発音において、音節数の理解があやふやなら、ピアノ演奏で、鍵盤をたたく音の数を、絶えず間違うようなもので、メロディーが根本から壊れてしまいます。音節こそ、精妙極まりない英語の心臓部だということを、ほとんどの日本人がこれぽっちも知らないのです。
とは言え、音節は、英語の音声面の学習の一部に過ぎません。そこで、今回注目する英語の音節を含めて、本格的に英語を学ぼうとするすべての日本人学習者に求められる、英語の音声面の基本学習項目をまとめておきます。
①発音記号を使った個々の子音や母音の発音の訓練と習得
②子音(多重子音を含む)と母音(二重母音、三重母音、長母音を含む)を絡めた音節に関する理論的知識の獲得、並びに
実践的な訓練と発音の能力の獲得
③アクセント記号と単語内のアクセントを辞書で確認し、実際にアクセントを自ら発音で示す訓練とそれを実地に生かす能力
の習得
④音節の強弱のバランス(=強音節と弱音節の配分)の上にたった、各単語の正しい発音の訓練と、その能力の習得
では、ここから、「リクエスト(request)」と「クエスチョン(question)」について、日本語の音節の数え方と英語の音節の数え方の違いを学びまます。英語の音節は、日本語の音節の考え方と対照させるとき、その本質が明瞭にわかります。
A. 日本語の音節
日本語の音節の一番の特徴は、「あ」「い」「う」「え」「お」でおなじみの「五十音図」に載っている一文字を、原則として「一音」と勘定するところにあります。
ところで、日本語の「五十音図」は、単なる音の配置図ではなく、平仮名(もしくは片仮名)、すなわち日本語の表音文字に対応しています。平仮名(もしくは片仮名)は、日本語を構成する音声要素を文字として視覚化したものです。
日本語の音の数え方にはルールがあります。例えば、「きっぷ(切符)」とか「けっか(結果)」などのように「っ」と詰まる音(促音)も、「ん」(撥音)も一音と勘定します。ですから、「マッチ一本」は「マ」「ッ」「チ」「イ」「ッ」「ポ」「ン」というように、七音に勘定します。ただし、「キャ」「キュ」「キョ」や「チャ」「チュ」「チョ」など(拗音)は一音と数えます。ですから「クエスチョン」は、「ク」「エ」「ス」「チョ」「ン」と五音に数えます。また、「キャッチボール」は「キャ」「ッ」「チ」「ボ」「ー」「ル」と六音に数えます。「ー」は長母音のときに使う記号で、一音扱いです。
実は、日本人のリズム感覚も、このような一文字=一音とする発想に基づいています。ですから、俳句や短歌、狂歌や川柳、あるいは交通標語も含めて、言葉を躍動させたいときには、必ず、五、七、五とか、五、七、五、七、七などのリズムをひねり出します。このルールを音数律と言います。そして、日本語の音数律の基盤は一文字=一音の原則を貫く「五十音図」です。例えば、「親孝行(五音)、したいときには(七音)、親はなし(五音)」では、「お」「や」「こ」「お」「こぅ」+「し」「た」「い」「と」「き」「に」「は」+「お」「や」「は」「な」「し」と音節を勘定し、印象深くリズムを刻みます。
日本語のリズム感覚が、このように「五十音図」を基礎にしていることを知れば、日本語の生命そのものが、この「五十音図」によって支えられていることが分かります。
B. 英語の音節
次に英語の音節についてみてみましょう。
まず、「リクエスト」は、日本語として音節を勘定をすれば、「リ」「ク」「エ」「ス」「ト」と五音にかぞえます。しかし、「リクエスト」の英語綴りは request であり、音節の区切れをハイフンで示すと、 re-quest となります。さらに、発音記号で音素を記述すれば、/ri-kwest/となります。
これを基に音節の内部を分析すると、第一音節の/ri/は「子音+母音」であり、第二音節の/kwest/は「子音+子音+母音+子音+子音」です。
ところで、英語の音節分析のルールは、「子音は単独子音と多重子音とを問わずゼロと勘定し、母音の数を足して、合計をその単語の音節数とする。(ただし、二重母音、三重母音、長母音も、短母音と同様に、一音と勘定する。)」です。
このルールを当てはめると、request は二つの母音を内包する語、すなわち、二音節の語であることが判明します。
おなじことを「クエスチョン」に対して行えば、ques-tion と分節され、発音記号で発音を示すと、 /kwes- tʃən/となります。次に、前半のkwes を子音と母音に分けて示すと、「子音+子音+母音+子音」となります。同じく、後半のtʃən は「子音+子音+母音+子音」であることが分かります。音節数は母音の数で決まるので、この語もまた二音節の語であることが判明します。
このように、英語と日本語とでは、音節の勘定の仕方が全く異なります。つまり、日本語では文字数に依拠する音節が、英語ではた単語に含まれる母音の数にのみ依拠することが分かりました。
次に、音節分析はアクセント(強勢アクセント)と連動させなければなりません。英語では、アクセントが多音節の単語に命を吹き込むからです。そして、リズムは、アクセントによって命の脈動を得た多くの単語の集まりである「文(sentence)」に宿ります。そこで、アクセントのある音節を赤で示すならば、request は/ri-kwest/ となり、question は/kwes-tʃən/ となります。
英語のリズムは、単語のアクセントと深くかかわっています。question という語が、実際にどのように文のリズム形成に寄与しうるかは、次のブログで見ていきます。
今日は、その前提として、request や question が日本人にとって、どのように難しい発音上の関門を持っているかを論じてきましたが、最後に子音が連続する際の難しさの一例として、/kw/を取り上げ、どこがどのように難しいのか、詳しく見ておきます。
4./kw/の発音
実は、request と question の発音は、日本人にとって発音することが極めて難しい音を含んでいます。いったい難しいのはどの音でしょうか。それは、本稿の冒頭に掲示した/kw/ という連続子音です。日本人は、英語の question を、「クエスチョン」という片仮名にひかれて、/ku/e/ su/tʃə/n/と五音に発音してしまいがちですが、すでに論じてきたように、これでは二音節の語であるquestion の正しい発音はできません。しかし、これでは、/kw/という連続子音も正しく発音することはできないのです。なぜなら、日本人は、/kw/ を無意識に /ku/ で代用して、極めて大切なポイント、すなわち連続子音の発音の難しさを見逃してしまうからです。
では/kw/はどう発音するのでしょう。/kw/は、/k/を発音した後、間髪を入れず、次の子音、/w/ 、に移るのです。それから母音を含む/es/ を発音します。そして、最後は/tʃən/で締めます。この語で日本人が苦手とする発音は/w/という子音です。苦手意識が欠落しているだけに、この子音の習得は、究極の難関とも言えます。
この音は、唇を先に突き出しながら丸く尖らせ、一番小さくすぼめた、その一瞬に、強い呼気で、一気に発音します。これを自覚的に何十回も練習し、あくる日も同じように練習し、これを一週間ほど繰り返します。確実に難なく発音できるまで訓練し、この/w/と/es/が間髪を入れずに強く結合するようになった時、初めてこの単語の発音に、英語本来の魂が宿ります。これを大事にしながら、残りの/tʃən/を丁寧に添えます。
/w/は有声子音ですが、私がかねてより申し上げている「連続性子音」ではありません。引き延ばすことが出来ず、むしろ、弾力と瞬発性がこの子音の真の働きだからです。ですから、破裂性子音でこそありませんが、それに匹敵するほど、効果は絶大です。
/w/の音は、west 、wet、wash、water、want、went、wild、would、wool、walk、wait、week、weak、などの日常語に多く使われます。また、qu で始まる多くの語でもこの子音が関係します。例えば、queen、quality、quarter、quick、にrequest に使われます。他にも、require、squire、squirrel、aquire、aquarium などがあります。くどいようですが、日本人は、/w/の音が苦手なので、しっかり意識的に、訓練しないといけません。無意識に/u/の音で間に合わせてしまうからです。
5.英語には「ウ」が三種類もあるって、ほんと?
最後にひとつ面白い話をしましょう。日本語では「ウ」の音は一つですが、英語には、/w/と/u:/と/u/の三種類があります。最初の/w/ はすでに説明しました。次の/u:/は鋭い「ウ」であり、長母音です。最後の/u/はゆるい「ウ」で短母音です。発音の仕方は、鋭い「ウ」では、唇をしっかり前に突き出し、うんとすぼめてから、「ウー」と長めに発音します。他方、ゆるい「ウ」は、唇から力を抜き、そのまま唇をやや丸めて、半分「オ」に近い「ウ」を発音します。
鋭い「ウ」とゆるい「ウ」については、pool (/pu:l/)とpull(/pul/) の違いを、自分で正しく区別しながら、自分の耳と自分の口を使って、おっかなびっくり、そろりそろりと、口がだるくなるまで、どこまでも、体験的に学び取ってください。また、soon(/su:n/)と soot(/sut/)の母音の違いも、同様に、自分の耳と自分の口を使って、しっかり体験的に学んでください。
ご健闘を祈ります。