語彙って、何?

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語彙力って、何?

語彙力って、何?

2021/07/23

語彙力って、何?

語彙力増強の必要性について

 

 

英語を学ぶ日本人の多くが、普段、最も気にしていない学習項目と言えば、恐らく語彙です。日本人同士の会話で、「彼は語彙が豊富だね。」と言えば、ある人のある分野での知識が優れているとか、日本語の知識が豊かで、難しい判断が要求される厳しい状況などに置かれても、言葉一つで的確に対応できる、などという意味です。これは個人の持っている言葉の知識に関係しており、それが社会生活の様々な場面で、そつなく生かされるとき、その人の培ってきた高度な「語彙力」の表れとみなされます。一方、語彙の彙は「集める」という意味ですから、語彙は多くの語の集まり、という意味です。ある言語の語彙は、その言語を使う人たちが使う語の総数です。また、『源氏物語』の語彙といえば、『源氏物語』に出現するすべての語、すなわち延べの使用字数、もしくは、互いに異なる語の総数で す。 後者は、学者など、専門家にとって大切な意味です。

ところで、語彙も語彙力も、英語では vocabularyと言います。また、おなじみのvocabulary building というフレーズからも分かる通り、一人の人間にとっての語彙は build (構築)されうる性質を持っています。この場合の語彙は、ある特定の言語に関してある人が持っている、認知的理解レベルの語の総数と、使用可能レベルの語の総数を合算したものを指します。英語学習者は、英語を学ぶ過程で、この両面にかかわる語の総数を、初心者レベルのの数百から、上級者レベルの数万にいたるまで、順次、増やすことができます。しかし、そのように増やすことはなぜ必要なのでしょうか。

英語学習者は、例えば、不意に人に英語で道を聞かれたとき、あるいは誰かに英語で話しかけられたとき、慌てることなく、断固として必要な対応ができるようにしておきたいものです。しかし、このような場合に、とっさに、適切に対応できるためには、三つのことが必要です。一つは、相手の英語をしっかり聞き取る聴解力(リスニング)並びに発話力(スピーキング)です。この二つはセットです。二つ目に重要なことは、相手に不快な印象を与えることのない、まともな英語で応対できること。言い換えれば、必要に応じて、英語の「文」で対応できることです。そのためには、瞬時の判断によって、その場にふさわしい主語と動詞を正しく組み合わせ、こちらの意図や情報を相手に正確に伝えるだけの文章力(ライティング)を、日ごろから鍛えておくことが重要です。そして、三つ目に、どんな話題であれ、話を継続する上で必要な情報を、逐一、英語で伝えられるようにしておくことが望まれます。さて、これらの条件のうち、三つ目が、語彙力(ボキャビュラリー)です。

語彙力はひたすら増強し、また鍛えるほかないのですが、例えば、外国人と普通に英語で話しをしていて、急に、あの日本語、英語で何というのだったかな、と一瞬心に焦りが出た経験は、誰にでもあるはずです。英語を話していて、たまにそいうことがあっても心配することはありません。しかし、あまり頻繁に起こるようなら、自分が扱える語彙の全般的な品薄状態(在庫不足)を疑うべきです。発音も文法も申し分なくとも、肝心の語彙が不足していては、不足する弾薬で戦うことを強いられた兵士にも似て、焦って落ち着かず、心細いものです。もうお分かりのように、語彙の増強は、英語学習者にとって、実は、死活的に重要な学習事項なのです。英語が素早く読み取れなかったり、明瞭に聞き取れなかったりするとき、その原因のかなりの部分は、実は語彙力と関係しています。英語学習が、初級から中級、中級から上級へと、学びの階段を着実に上がって行くためには、発音や文法とともに、語彙の習得にも、極めて慎重に、かつ意識的に取り組まなくてはなりません。

ただ、語彙の不足を心配するあまり、短期決戦の受験生のように、やみくもに単語を暗記するのでは、英語はいつまでたっても、一定レベルを超えることはできません。何故かと言えば、英語で世渡りをしてきた世界中の人間が、様々な現実に即して使いこなしてきた、手軽で、使い勝手のいい単語ほど、実は、信じられないほど複雑で、その実態は、日本人の想像をはるかに超えているからです。日本語と英語は、「単語」のレベルで、例えば、「猫」=cat というように、きれいに1対1の対応をしているに違いないと、特に、学校英語の初級の段階で、練習問題やテストを通じて、日ごろ、強化・徹底して刷り込まれますが、それは、そうであってほしい、という切なる願望に支えられた、実にむなしい幻想にすぎません。日本人は、英語学習のできるだけ早い段階で、このナイーブな、危険極まりない思い込みと、きれいさっぱり縁を切る必要があります。というのも、日常生活で使われる主要な英単語、およそ5000語は、それぞれと対応するはずの日本語と、それらの英単語がカバーする意味範囲が、極めて多くの語において、大きくズレるからです。例外はあります。例えば、酸素と水素は、それぞれ、oxygenと hydrogenとして、きれいに1対1で対応します。一般に、高度に専門的な用語は、日本語と英語で、100%対応します。けれども、中級以上の英語学習者にとって、必要な語彙の中核を占める日常語の大部分において、このような単純な対応は存在しません。

分かりやすい例を出しましょう。たとえば、「学校」は誰でも school  だと覚えますが、逆にschool はいつでも「学校」かというと、そうではありません。今、ウェッブ上の辞書で簡単に調べた限りですが、school は、1. 高校までの学校、の他に、2. 単科大学、3. 授業期間、4. 校舎、5. 学ぶ場所、6. 学派、7. 流派、8. 魚の群れ、などの意味でも使われます。また、他動詞で、1. 教育する、2. 訓練する、3. 学校教育を受けさせる、4. 礼儀作法を教える、5. 馬を調教する、6. 厳しい訓練を与える、などの意味でも使います。つまり、誰でも良く知っていいる語ほど、1対1ではなく、1対10か、それ以上の対応、が普通なのです。一つの単語が、使われる場面が変わるごとに、10変化、20変化するのです。その変化に即応できなければ、その単語を、日常的に使いこなすことはできないのです。

要するに、一夜漬け方式で、1対1で意味を対応させながら、一日に何十もの単語を暗記しても、大学受験など、ごく限られた目的以外には、それほど効果は期待できません。そのように言い切れる、もう一つの理由は、語義のすれ違いが、日本語と英語の、双方向で起こる、ということです。英語と日本語では、一見、似た者同士の単語の間に、実に唖然とするほど大きな意味のすれ違いが起こります。日本語的に考えて、日本語ならこういう意味でも使うから、と思ってある語を、日本語の感覚で使っても、そういう意味では、その語は使わない、ということが、実は普通なのです。下手な日本語的推理は、語彙に限っては、ほぼ100%外れる、と言ってよいのです。

たとえば、日本語では「壊す」と「破壊する」と「崩す」では、その意味合いと使い方が、お互いにはっきり異なります。他方、これらの日本語に対応すると考えられる、break とdestroy とdemolish の間でも、お互いに、意味や使い方が大きく異なります。さて、問題は、例えば日本語の「壊す」と英語の break について言えば、この二語間の意味の一致は、むしろ少ないのです。そもそも、break は単に壊す、という意味で使われるのではなく、何かの連続性を断つ、つまり不連続にする、という意味で使います。例えば、Let's have a break. は、動詞として使われることの多い break を、名詞的に使った例ですが、「ちょっと休憩しましょう。」という意味です。何かを壊しましょうという提案ではないのです。それは、これまでみんなが力を合わせて継続してきた作業や労働を、しばらく不連続にしませんか、すなわち、少し休憩しましょう、という提案なのです。普通、グループのリーダーなどが使います。また、不定冠詞の a は「ひとかけらの」という感じです。a は、break とつながることで、仕事の連続に属する時間から解き放たれた、別の時間のひとかけら、すなわち暫時の休憩、という意味になります。

さて、break が持っている連続性、継続性を断つという根本の性質は、時間だけではなく、物質的な連続性の切断にも及びます。例えば、花瓶が割れるのは、その表面に断面が生じることを指し、正常な、または望ましい連続性が損なわれる、という意味を基礎に持っています。応用問題として、break a $100 bill は100ドル札を両替し、10ドル札とか1ドル札などに崩す、という意味になります。また、break a promise と言えば、約束の効力の継続状態を「非連続にする」、すなわち、約束(の継続)を破棄する、という意味になります。また、break the  news to~ と言えば、知らないゆえに平穏に過ごしてきた人(々)に、「寝耳に水」のような、衝撃的、もしくは破滅的なニュースを、誰かが、意を決して、最初に知らせる行為を指します。

語彙の増強は、このように、所与の一語が秘めている、意味の基底部に対する認識を、努力の末に手に入れる作業を含みます。break を単純に「壊す」とか「割る」という日本語に置き換えて、日本語的にこの語のすべてを理解した積もりになっていると、break が持っている基本イメージが分からないままに終わってしまいます。それを示す、さらなる事例を見ておきましょう。

たまに聞く言葉に、Oh, give me a break. があります。これは日本語では、「馬鹿も休み休み言え。」とか、「冗談言うな。」という、ごく親しい友への、親愛の情を込めた拒絶の姿勢、怒るというよりも、懇願、もしくは要請の言葉です。馬鹿なことを言って、人を楽しませるのもいいが、のべつ幕無しでは困る、しばらく馬鹿を言うのは止めにしてくれ、という意味なのです。ここでは、間断のない冗談の連発を厭う気持ちが、あるとき勝ったのです。また、よく聞く言葉に、breakthrough という言葉があります。これは、多くの人が懸命に取り組んできた価値あるテーマを実現するための、新たな手法が、この度ようやく発見された、などというときに使います。これまでの失敗と悪夢の連続を断ち切る際の、感動と爽快感が伴います。 

他方、break の類義語の一つ、destroy は、構築されていたもの、例えば建築や制度や都市や国家など、何らかの体系的な構造体、もしくは構築物を、原形をとどめないほど木っ端みじんに破砕し、壊滅させる、という意味で使われます。日本人が1945年8月15日に受諾した、ポツダム宣言の真の恐ろしさは、日本が、これ以上、本土決戦に固執するならば、連合国は、日本を徹底的に壊滅させる、と言う意味で、宣言の結びの文に、 destroy という語が使われていたことです。他方、 demolish は、圧倒的な物量、もしくは威力で、大きな建造物などを、叩き壊したり、爆破したり、倒壊させたりするときに使われる言葉です。

では、これらの類義語を正しく使うためには、どのような学びをすればよいのでしょうか。辞書などに載っている、特定の語をめぐる類義語の使い分けに関する解説などを読むのが手っ取り早いですが、普段の学習としては、英語で書かれた文書、例えば、新聞や雑誌の記事、評論や小説、物語などを読み、その中でその都度気になる語を選び、それらが使われている文脈(コンテクスト)の中で、その意味と使い方を、学び取ることです。そうすると、この語は、こういう状況の時に使うと生きる語だという事例が、次々に私たちにインプットされ、その語の多方面にわたる使い方が、それぞれの状況とセットで頭に入ります。単語を覚えるための市販の解説本でも、その語が使われる文脈(コンテクスト)を示すための例文が、最低、一個はついています。一方、真の語彙力の構築には、英英辞書を使うことをお勧めします。英英辞書は、その語の理解に必須の事柄を、丁寧にきちんと英語で解説してくれるからです。例文も状況を彷彿とさせるものが多く、参考になります。

語彙力をつけるもう一つの方法は、辞書で調べた語は、その都度、その語の語源を調べ、その語の成り立ちや、元の意味を、時間をさかのぼって理解することです。多くの場合、語が持っている様々な語義の、共通の基盤に触れることができます。語は歴史的時間の経過とともに、カバーする意味の範囲が変化し、元の意味から微妙にずれてきます。日本語でも、「おかし」は平安時代には、現代の、笑いを誘発するという意味の「可笑しい」とは異なり、ある事象について「趣(おもむき)が深い」という意味で使っていたことが判明しています。英英辞書でも、古語で、これこれの意味で使われていた、という言及によく出会います。一つの語を正しく使うためには、このような回り道も時に必要なのです。日本人なら、「いかにも」「はてさて」「拙者」「それがし」「そこもと」など、時代劇でよく耳にする決まり文句も、難なく理解できます。同じように、ネイティブの英語話者には、ある語の昔の意味も、語彙の一部として頭に入っている、ということを勘定に入れておかなければなりません。

辞書を通じて、語源をさかのぼる訓練をしておくと、語根と語尾、あるいは接頭辞と語根の区別ができるようになります。こうして、よく使われる語根だけでなく、よく使われる接尾辞や接頭辞も、自然に覚えるようになります。例えば、expose(暴露する) や express(表現する) の ex- とかprogress(進歩) や produce(製造する) の pro- などの接頭辞は、まだ沢山の語に使われます。また、revival やproposal の-al は、revive (復活する)や propose (提案する)に-al という接尾辞は、動詞を名詞化する際によく使われます。他にも、kind に -ness という接尾辞を付けると形容詞が名詞に変わることはよく知られています。特に接尾辞の場合、多くの動詞の派生形を覚えることに繋がります。例えば、criticize の場合、名詞形に critic (批評家)とcriticism (批評)、形容詞形にcritical(危機的な、批評的な)、副詞形に critically(批評的に、際どく、精密に)のあることを、辞書で確かめることができます。関心をもって調べることが、自然と語彙の増強に繋がるのです。こうして、正しい方法で学ぶ家語学習者の中から、多くの「語彙増強の虫」が誕生していってほしいものです。

最後に、もしも、英語に上達するための王道、1000本ノックのような地道な基本練習、というものがあるなら、それは多分、多読 (extensive reading)です。いろいろなジャンルの英語を、好き嫌いを言わずに、ひたすら読むことほど大きな効果を生むものは、まずありません。それを継続していると、おや、今の語は何か腑に落ちない、あれっ、何かおかしい、と直感的に思うことがよくあります。それは、自分では知っていると思っていた、中学一年生で習うような簡単な単語が、自分のあずかり知らない意味で使われていた、というような場合が多いのです。その時は迷わず、すぐに辞書を引き、丁寧に、そして慎重に調べることが大切です。「目からうろこ」で、思わずうなることがよくあります。一見、簡単な語ほど、実は知らない使い方が多いのです。

例えば、run は「走る」と覚えて満足していては、実は、エッセイも、物語も、もちろん評論も、読み切れません。このような簡単な語でも、辞書を引けば、実に様々な、そして有用な意味で、使われることが判明します。そして、人に辞書を引かせるものは、基本的に、多読なのです。

 

 

 

 

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