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バイデン大統領の二重母音

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バイデン大統領の二重母音

バイデン大統領の二重母音

2021/04/30

二重母音の使い方

演説に強い英語

昨日、バイデン大統領のアメリカ議会での演説をテレビ中継で聞きました。気づいたときには、その演説はすでに始まっていたので、最初の部分は聞き逃しましたが、コロナ禍の中でもあり、まばらに座っている議員たちを前に、大統領は、さすがと思わせる熟練の演説をしていました。

「自分は、かねてより、大統領就任後100日以内に、国民へのワクチン接種1億回を約束してきたが、100日経ったいま、実際は2億2千万回の接種を実現した」と実績を誇ったり、国内の格差是正のため、富裕層への正当な増税と中間層への保護的な政策を約束すると、大きな拍手が起こり、演説は中断しましたが、内容的にも、全体として、聴きごたえのあるものでした。世界へのメッセージとして、おそらく最も多くの人の心をとらえたのは、中国の習近平と会談をし、近年、不穏さを増している台湾情勢を睨んで、中国との対立は避けるが、競争はしてゆく、そしてインド太平洋領域への軍事的プレゼンスを強化するのは、台湾付近で軍事的な衝突が起こらないようにするためである、また、ウイグル自治区で行われている深刻な人権侵害に口をつぐむんでいるわけにはいかないと言っておいた、と述べ、中国へのバイデン政権の毅然たる姿勢を打ち出したところでした。

ほかにも、アメリカ国民の教育レベルの全体的な底上げを行う必要があり、そのために、現行の12年間の教育に加え、さらに2年間を付け加えたい、と述べたり、毎年多くの犠牲者を出す銃撃事件に触れ、銃規制の強化を訴えたり、もうすぐ一周忌となる、ジョージ・フロイドの警察官による不当な殺害事件に触れ、人種差別をなくさなければならない、と述べたり、気候変動の問題を含む、その他の重要案件を取り上げた演説は、全体として、情理のバランスの取れた、優れた演説だと思いました。

私は、この演説を、すぐさま副音声に切り替え、英語で聞いたのですが、最初は、ちょっと拍子抜けするくらい、静かな話しぶりでした。それに、時折、わざと囁くように小さな声になって、こちらが耳をそばだたせるのを期待するような節も見られましたが、そのうち、力強さを増し、最後は身振りを加わえて、ヒートアップしていきました。大きく開かれた口が、突然、横に真一文字に引っ張られたり、声の抑揚が目立つようになりました。最後は、満を持し、"We must act now."と声のヴォリュームを上げるのが目立ちました。

えいごでは、強調された母音は、音節の数は1音ですが、強調効果を狙ってかなり引き延ばされるので、時に、3音にも4音にも聞こえます。バイデン大統領は、"We must act now." と言いましたが、最後の "now" は、二重母音の /au/ を含んでいます。彼はこの"now" をことのほか強調しました。強調しない場面では、”Now?”聞かれて、"Yes, now.” と答えるときには、1音に聞こえます。けれども、バイデン大統領の場合、「今こそ行動すべきだ!」と強い訴えをしているところなので、実際耳にすると、決して日本語で「ナウ」と表記できる音には聞こえず、「なああお」と表記すべき4音に聞こえます。

ここで重要なのは、「強調された音節は、強く発音されるが、発音の長さも任意に伸ばしてよい」とするもう一つの規則が、母音の仲間であるこの二重母音にも適応されたに、という事実です。一般に、英語演説の強みは、言葉の要所要所に、これ見よがしに、強勢アクセントを持つ語を配置し、その音節をしっかり強調することで演説にレトリカルなメリハリをつけることができる点にあります。バイデン大統領は、すでにそれを十分活用していました。しかし、これに加えて、英語は、レトリックとしての強調を受け止める音節は、それを同時に長母音化することもできる、という規則を重ねて活用することで、演説の効果を何倍にも増し加えることが可能なのです。とくに、二重母音は、その二重のチャンスを最大限に活用できるために、極めて有効なのです。

この原理は、日常の英会話でも十分生かすことができます。これを生かすことで、英語は不自然になることはありません。むしろ、時と場合によっては、驚くほど自然に聞こえる英語を話すことも可能なのです。逆に言えば、これを習得しない人は、上手な強調ができないため、決して十分に自然に聞こえる英語をマスターすることはできないのです。

お国訛りは誰にもあります。たとえば、刑事コロンボはイタリア人訛りのすこしあるアメリカ英語で話し、エルキュール・ポワロは、かなりきついフランス語訛りで英語を話し、シャーロック・ホームズは、勿論、上流階級に特有の訛りで英語を話します。でも、私たちとしては、いずれの英語も気になりません。それぞれの特色ある英語で十分なのです。むしろ、それが魅力の一部を形成していると言っても過言ではありません。

ですから、仮に私たちが望んだとしても、世界標準の英語というものが実際に存在するわけではありません。たとえば、日本語の訛りが少々きつくとも、英語の音節を正しく扱って、自然な調子で話すなら、何ら非難されることはありません。でも、不自然な抑揚や、不自然な間合いで話されると、まだ未熟である、初歩的な段階にある、とみなされても致し方ありません。逆に言えば、英語のどこを強調し、どこを目立たないようにさらさらと流すか、その自然な呼吸が分かるようになったとき、その人の英語は、実は飛躍的に上達しているのです。

ニュースで編集されたときには、大統領の演説は、十秒前後しか続かないその一部が、字幕付きで抜き出されるに過ぎません。しかし、今回のように、生中継の副音声で、コマーシャルの中断もなく、1時間以上続けて演説を聞くと、全体的なレトリックという観点から聞くことも可能です。優れたスピーチは、英語学習の優れた教材になり得ます。

 

 

 

 

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