代名詞はなぜ生まれたのか?

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代名詞はなぜ生まれたのか?

代名詞はなぜ生まれたのか?

2020/12/13

代名詞はなぜ生まれたのか?

人間関係の水平的ネットワークの構築のために

英語は代名詞の発達が著しい言語の一つである。一般に人称代名詞、非人称代名詞、指示代名詞などの代名詞は、人類がその発達の過程で、家族関係や同族関係を超えた人間関係を構築する必要が生じたとき、今日みられるような高度な抽象性と機能性を獲得したと推測するのが自然である。一家族だけで独立的に生活が成り立っている場合であれば、それぞれの個人名と、父、母、祖父、祖母、叔父、叔母、兄、弟、姉、妹、息子、娘、従兄弟、従姉妹、甥、姪などの家族関係の名称が一通り揃ってさえいれば、少なくとも人称代名詞を使う必要はめったに感じられないはずである。

しかし、人間の社会は、一家族ずつ遠く離れ、それぞれ独立的に暮らすことは、様々なリスクを生む原因となり、多くの場合、生存の可能性を下げる。多くの家族が協力し、知恵を出し合ってこそ、不測の事態、例えば地震や台風や津波などの自然災害や部族間の抗争などに、より適切に対応できる。道路の建設や架橋、護岸工事なども、村や町の人々、また部族社会など、一家族よりも大きな集団の結束と協力によって、はじめて可能になる。人間の社会が発達し、四大文明に象徴されるような、共通の言語を持つ大集団となったときはじめて人間は、公共的な社会インフラ、例えば、学校、病院、役場、神社、教会等の施設を建造し、維持・管理できるようになる。農業、林業、工業、商業などが発達し、他地域や他民族との交易も盛んになれば、生産量の記述、販売の記録、決済の記録、人件費、関税、流通経費を含めて、経済活動の収支を文字によって記録・管理するとともに、人々が必要とする農産品、工芸品、日用品、その他がスムーズに流通するよう、市場を健全に保つことが不可欠になる。このように、不特定多数の人間が協力し合って物事を進める必要性が生じたとき、家族内でのみ有効な呼び名だけでは、どんなプロジェクトも頓挫してしまうだろう。

人称代名、非人称代名詞、指示代名詞からなる代名詞は、家族内の関係を表す名称や個人の呼び名を超えて、人々が広く社会全般に開かれた人間関係を構築する際に、目を見張る活躍をする。代名詞は人間の行動のダイナミズムを生み出す源泉となるのである。代名詞は、人間の上下関係にとらわれず、水平に広がる人間関係のネットワークを構築するのに貢献する。なぜなら、自分のことを全て "I" で統一し(一人称)、面と向かって話している相手のことを "you" で統一し(二人称)、それ以外の人をすべて "he" もしくは "she" で統一した(三人称)からである。また、鬼など、人間ではないと判明している単一の存在や物事はすべて"it" で統一した(非人称のit)からである。そして、人称代名詞の複数形はそれぞれ、"we"、"you"、"they" で代表させた。こうして、家族関係にも、社会的な身分関係にも左右されない 、中立・簡便・高速、そして使い勝手の良い、高度に機能的な代名詞ネットワークが完成したのである。 

英語では重要な代名詞ほど、フランス語を話す人々による支配(11世紀のノルマン人による英国征服)が英語にもたらした大変化を乗り越え、元の完全な格変化を残している。日常的な会話まで含めて、現代もなお、代名詞の全体系はほとんどそのまま使われ続け、英語によるコミュニケーションの効率と信頼性を高めることに貢献している。現在使われる英語は文法も発音も近代にその原型が成立したものである。近代の初期まで存在した、親近感のより強い二人称 "thou" は今日では消失し、もう一方の二人称である"you" のみが使われている。

こうして、英語の代名詞は、ノルマン人の征服という歴史的事件を経た後も、しぶとく生き延び、英語にとって必要不可欠で中枢的な働きの一つを担当している。明快で簡便で水平的な、世界に冠たる代名詞ネットワークを擁することで、現代英語は、世界でも最も高度なコミュニケーション能力の保証された言語に成長したのである。

 

 

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