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背骨を持つ英語、持たない日本語

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背骨を持つ英語、持たない日本語

背骨を持つ英語、持たない日本語

2020/12/24

背骨を持つ英語、持たない日本語

語順と言う背骨

英語が日本語に比べて情報伝達のスピードと正確さにおいて勝り、議論を戦わす際に必要な機動性に富むことは、ほぼアプリオリに認めてよいのではないか。英語では、大切な情報ほど前に出してくる。命題はポンと前に提示され、これこれこうだから、という理由付けは後から提示される。また、「あなたは~に賛成しますか?」という質問には、単純明快に Yes か No で答えるのが英語の作法と言うものである。もちろん、単純には答えられない場合もあり、その時には、Yes and No. と答えておいて、yes である理由と、 No である理由とを交互に述べ、相手の了解を求めるのが普通である。英語話者は、どこまで行っても合理的に考える。英語はそのように考え、行動することを前提にしている言語なのだ。彼らは、英語で物事を考える。その時、自分の意見をどのように言うか、感じたこと、経験したことをどのように人に伝えるか、その手段は英語以外にない。そして、英語話者は、現実をどのように理解しても、それをどのように表現するかは、英語特有の言い回しと語順に頼る。彼らの人間性が日本人の人間性とどのように異なるかは、言語特性から推し量ることができる。

英語の強みが、情報伝達の高速性と、伝えられた情報の解像度の高さにあるとすれば、それを支えているのは英語の文構造の堅牢さであり、そのような文構造を生み出す英語語順の鉄則、すべての英文の支配者である五文型だと私は確信している。どのような内容でも、この五つの文のパターンのいずれかで表現できるということは英語の強みである。このパターンは固定していることで機能するようにできている。形容詞系と副詞系の修飾語句をドレスのように身にまとい、五文型を駆使して非常に軽やかに、明快に、意志の伝達がなされる。もちろん、この言語を使いこなすことは容易ではないが、名手の手にかかると、英文は素晴らしい効果を発揮する。このことを私流に言わせていただければ、英語は背骨を持つ言語だということである。

これに対して日本語では、言外のニュアンスを重んじ、以心伝心に頼る文化がある。あまりストレートに言ってしまうと相手を傷つけることを恐れるのである。「君は今度の旅行には参加しないんだね」と聞かれると、参加しない場合は「はい、参加しません」と答え、参加する場合は「いいえ、参加します」と答える。「このように、「はい」と「いいえ」は相手の気持ちに寄り添って使い分けることになっている。英語では、逆に、命題に対してyes か No で答える。例えば、旅行に参加しない場合はNo を最初に行ってから、参加しない旨を言い、参加する場合は Yes と最初に言ってから、参加する旨を伝える。人が自分の意見を述べる場合も、否定にしろ、肯定にしろ、どちらかに言い切る言葉は最後に来るので、それまで結論が持ち越されることになる。日本語は、難しい話ほど、最初は議論の方向性を決めないまま、あちらの話題、こちらの話題とさまよった挙句、最後にぼそぼそとつぶやいて、話の結論を得る、というスタイルをとることが多い。村の寄り合いの議論の名残かもしれない。

国境を接して異なる文化と言語を持った異民族同士が隣り合わせで暮らしているヨーロッパ諸国では、貿易や通商交渉、物流の確保など、共通言語を介した議論と協定の締結が肝要である。共通言語に英語が選ばれる機会も、国力の増大とともに高まっていったと考えられる。しかし、もう一つ別の要因がここに絡まってくる。ある歴史上の事件を契機に英語は存亡の危機に立たされた。ノルマン人の攻撃を受け、英国はノルマン人の支配下に置かれたのである。そして、少なくとも公式の場ではフランス語を使うことが強要された。しかし、その間に、フランス語の語彙、フランス語の構文を多く採用した英語は、フランス語に並ぶ明晰性を確保し、北欧系と南欧系の両方の語彙を持った。そして例えば、主語の格変化に応じた動詞の活用、すなわち極めて精緻な語形変化の多くを失い、目的語についても、名詞の目的格が、代名詞以外ではことごとく剥落した。また、その代名詞でも、与格と対格の区別が消失した。これらの重要な機能の損失を補填するために、英語は語順を固定化することで乗り切ろうとした。格変化に代わる代替措置によって、欠けたコミュニケーション機能を再装備した英語は、言語崩壊の危機を乗り越え、自然言語として生き残った。

では、語順の固定化とは、具体的にどういうことか。主語が明示的に語順のトップに来ること。すなわち主語が必ず文中に現れること。これが、英語における語順の最初の大原則である。そこで、主語の定常的出現、並びに文中に占める主語の絶対的位置関係を、英語語順の第一原則とする。英語語順の第二原則は、主語の次の位置に、動詞が来ることである。そしてこの動詞は、自動詞と他動詞のいずれかに枝分かれする。次に、英語語順の第三原則は、自動詞はさらに、完全自動詞と不完全自動詞に枝分かれし、他動詞はさらに、完全他動詞と授与動詞と不完全他動詞の三つに枝分かれすることである。最後に、英語語順の第四原則は、不完全自動詞の後ろに補語が続き、完全他動詞の後ろには目的語が続き、授与動詞の後ろには間接目的語(与格に相当する)と直接目的語が続くこと、および、完全他動詞の後ろには目的格補語が続くことである。以上の四原則から、英語の五文型が得られる。すなわち五種類の文型である。そして、それは以下のとおりである。第一文型=主語+自動詞、第二文型=主語+不完全自動詞+補語(主格補語)、第三文型=主語+完全他動詞+目的語、第四文型=主語+授与動詞+間接目的語+直接目的語、第五文型=主語+他動詞+目的語+補語(目的格補語)。

文頭に副詞、副詞句、副詞節、分詞構文などが来ると、それらは本文の助走部分とみなされ、本文の開始はその間留保される。また、疑問文、命令文、倒置文では主語と動詞の順番が入れ替わったり、主語が省略されたりする。これらのアノマリーはすべて、五文型に加えられた有意味な変奏として機能する。すなわち、五文型の原則が生きているからこそ、倒置の効果、省略の効果が、二次的原則として生きて機能するのである。

 

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